世界遺産登録20周年を記念して実施されるアウトドアイベント、SIRETOKO Adventure Festival 2025。
本記事では、ゲストアスリートとしてご参加いただくプロアドベンチャーレーサーの田中陽希さんにインタビュー。
日本各地の山々を渡り歩く田中さんから見た知床の自然とは? 今年のイベントテーマ「次世代につなぐ」について。ご自身の考えを聞かせていただきました。
ーー 田中さんは昨年も SIRETOKO Adventure Festival に参加されました。そこで知床を訪れた際の印象を教えていただけますか?
田中さん:
昨年の SIRETOKO Adventure Festival 2024 で、「日本三百名山ひと筆書き」以来、久しぶりに知床を訪れました。「ひと筆書き」では、羅臼町側から羅臼岳を登頂し斜里町へと抜けていったのですが、昨年は車で斜里町側から知床横断道路を通り、知床峠を越えて羅臼町へ向かったんです。
そこで、土地の雰囲気が知床半島の中心を隔てて全く違うということに気づきました。
ーー 雰囲気が違うとはどういうことでしょう?
田中さん:
たとえば道のつき方です。斜里側では道路が比較的まっすぐ知床峠へと伸びていて、全体的にたおやかな雰囲気があるのですが、それが知床峠を越えて羅臼側へ入った途端、ガラリと変わる。道がつづら折りを繰り返しながら、急斜面をどんどん太平洋へと降りていくんです。
当然植生も違っていて。斜里側では山の中腹には草原が広がり、道端には花々が咲き乱れていたのに対し、羅臼側では高木が目立ち、深い緑がどこまでも続くような印象を受けました。
知床半島はオホーツク海と太平洋、2つの海を隔てるように伸びる半島です。そのため海洋の影響を受けやすく、半島の中心を隔てて地形や植生が違えば、天候が正反対のことも当たり前にある。
斜里町と羅臼町の境、半島の中心にある山々を隔てて異なる自然環境。それこそが知床の特徴なのだと実感しました。
ーー 今年の SIRETOKO Adventure Festival のテーマは「次世代につなぐ」。これについて、田中さんはどのように考えていらっしゃいますか?
田中さん:
僕は「次世代につなぐ」を実践していくうえで、「今」を正確に把握していくことが大切だと考えています。
というのも、そもそもなぜ「次世代につなぐ」なのか、その理由をわかっていないと、目指すべき方向が定まらないと思うんです。そういった意味で、本イベントが「なぜ次世代につながなくてはいけないのか」を考える良いきっかけになると考えています。
まずは現地に足を運んでみる。行ってみて知床がどういうところなのか、ここで何が起きているのかを知る。その「知る」というのがポイントで。なぜならそれは過去ではなく、今起きていることだから。「どんな現状なのか」「今何が起きているのか」を肌で感じることがキーになると思っています。
僕自身、昨年知床へ行った際に、一昨年はクマの出没件数が多く、コンビニの目の前にまでクマが出てきたと聞き、非常に驚きました。人間も自然の一部であり、循環の大きなサイクルの中に含まれていること。そして自然遺産の中で営まれてきた自然と人間の共生を続けていくためにどうすれば良いのかを、暮らす人だけでなく訪れる人も考えていく必要があること。そんなふうに、わずか2日間の滞在で身をもって感じたことがたくさんあります。
そうやって、今何が起きているのか、現在地をなるべく正確に把握しておけば、人間がどれだけ自然に歩み寄る必要があり、どう未来へとつなげていくべきなのか、思いを巡らせることができると思うんです。
その一歩に、本イベントがなれたらいいなと思います。
ーー 最後に、今年のイベントに向けて、意気込みを聞かせてください。
田中さん:
今回のイベントはさまざまなメディアを通じて、映像やテキストで発信していくことになりますが、僕は足を運んで、その土地に身を置くというのが、味わうこと・知ることの一番の方法だと思っています。
実際に現地へ行き、何かを見て、感じて、心を動かされる。その感動が次のステップへの後押しになります。特に知床は、土地に立っただけ、空気に触れただけで意図せず無意識に感動を得ることができる、そんな可能性が詰まった場所。
ぜひたくさんの方に足を運んでいただき、見て、感じて、知ってもらえたらうれしいです。
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SIRETOKO Adventure Festival 2025 では、イベント2日目の9月7日(日)に「田中陽希さんと歩く、羅臼湖トレッキング」が開催されます。詳細はこちらから。
text: 冨安 翠
photo (風景) : 山本 幸(知床財団)
direction: 初海 淳 (なみうちぎわをあるこう)
Updated / 2025.08.01